あの「非常にスペイン的」な何か…
2006年 12月 07日

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予告編の順番とは違いますが、スペインに行くという人がいるので、こちらを先に書いてみます。

アムステルダム経由でスペインの首都マドリッド、バラハス空港に着いた時、ちょっとドキドキしていたかもしれない。3年ぶりのスペインが自分に一体どんな感情を呼び起こすのか、我ながら予測不可能だったのだ。
そんな訳で、荷物が何番のコンベアから出てくるのか、あまりちゃんと見てなかった…確か2番? ま、行ってみれば分かるでしょ?

…手前から2番目のコンベアに「アムステルダム…」と出てたので、そこでストップ。でも荷物、数える程しか回ってないもんね…
回りで待ってる人少ないし…
それにコンベアの番号も2番じゃないし…アムステルダムからの便名も違うのよね…
アムステルダムでトランジットの案内板を見ていた時、同じ便がKLMともうひとつ別の航空会社の違う便名で、交互に表示されていたから、多分共同運航とか…

でもコンベアは全部で5本、番号は6から10まで…バラハス空港は近年大増築されていて、このターミナルには荷物をピックアップするところが確かむこうにもうひとつ…1から5?…やっぱり聞いてみた方がいいかも…

7番だったか、トランクがどんどん回っていて、周りで人がいっぱい待ってるコンベアの近くで、車椅子の乗客に何かを説明してる空港スタッフらしい女性のところに行って、話がすむのを待つ事に…車椅子のおじさん、別の男性スタッフが4番ターミナルに連れて行こうとしてるのに、私は4番ターミナルには行きたくないとか言ってる…でもまあ何とか説得されたらしく…

…あの、あそこにアムステルダムからって出てるんだけど、便名が違ってて…
「KLMで来たの?」
「そう」
「じゃあ、ここよ。そう書いてないけど、ここだから!」

…そうなんだよね、全然違うこと書いてあるの。便名も、出発地も…
でもそこなの。
でスタッフもちゃんと知ってるの。
おまけに殆どの乗客が、ちゃんとそこで待ってるの。

スタッフの女性の自信に満ちた態度に安心して、そのまま7番で待ってたら、5分と待たずに出てきたマイ・トランク…その時ふと、ああ、スペインに来たと思った。Las cosas no funcionan como es debido, pero... ¡que funcionan!... 物事が、そうあるべき形では機能しない、でも…機能してる!…とでも訳せばいいでしょうか?

3年間スペインを離れてたら、この感じ、忘れてたな…
何事もきちんと予定通り、計画通り、決まった形で行い、行われることに慣れてる日本人には、一見いい加減で、まともじゃないように見えるかもしれないけれど、結構まとも。
何にでもマニュアルがあって、マニュアル通りにしか動かない日本と比べると、一瞬不安になるけど、でも自分もマニュアルを忘れれば(?)結構それでうまく行く。マニュアルのない事項に対処するのは、日本人よりもスペイン人の方が絶対うまいって気がするし!?

融通無碍とでも言えばいいのか…勿論全然融通が利かなくて、くどくど説明が長くて、その実、行動力は皆無のスペイン人も一杯いるけど、私が如何にもスペインらしい、スペイン人らしいと感じるのは、このベルト・コンベアの一件に現れてるような行動、及び思考パターン(?)なのですね。

≪フラッシュバック・スペイン≫の「6. お店の人」にもちょっとだけ書いた事があるのですが、融通無碍の代表的職業だと思うのが、これ又「非常にスペイン的」と言っていいプロのカマレーロ(camarero)、つまり男性の給仕だ。昔、日本に長いこと住んでいて、日本語も完璧、日本社会や日本人を充分に理解していた或るスペイン人の先生をして、「日本にはプロのウェイター(ウェイトレス)はいない」と言わしめた何かを、スペインのウェイターたちは持っていた。
その、如何にもスペインらしい職業に、今変化が起こっている。

ひとつ目はカマレーラ(camarera)、つまり女性の給仕が増えたこと。
そして二つ目は、移民、つまりスペイン人でない給仕が増えたこと…

伝統的に男性の職業だった分野に女性が進出して来たのは、時代の流れもあるのでしょう。
かつては、ウェイトレスがいるのは、アメリカ式のハンバーガー・ショップなどに限られていた。
私が帰国した2003年頃には既に、一部の場所で女性給仕をチラホラ見かけるようになっていた。でも日本の伝統的ウェイトレスとは違って、彼女たち、男性給仕と同じような黒っぽいズボンにチョッキで、男性給仕と同じように軽妙洒脱、頭の回転が速く、気風もいい、いわばスペインのカマレーロの伝統をしっかり踏襲してるカマレーラたちでした。
そういえば伝統的なスペイン・レストランの中では、何故かバスク料理の店だけは女性の給仕がいて…そしてスカートはいてたっけ?

その女性給仕の数が更に増え、そして外国人給仕がグンと増えた。店によっては外国人しか居ないところも…

写真は、テレビでやってたコマーシャル。今回滞在中、まともにテレビを見たのはこの一日だけでしたが、2,3時間の間に何度もやっったので、その何度目かに撮りました。内容はマドリッド自治州の移民同化キャンペーンのようなので、肌の色の違う出演者たちが、赤と白のペンキで、お互いを塗り、そして床にマドリッド自治州の旗の模様を描いて行くというもの。

到着の翌日、友達の家のお昼に呼ばれて行ったら、お母さんが「昔はスペインの人口4000万だった、今は6000万…」
えっ? まさかぁ! だってスペイン人はどんどん少子化が進んでいる。なのに2000万も増えたって事は、少なく見積もっても移民が2000万? 人口の3分の1が外国人ってこと??
確かに私が帰国する前にも、移民はどんどん増えてたけど…



翌日、別の友人に会ったら…「イヤ、それはないだろう…4200万くらいじゃないかな?」
でも横から彼の奥さん曰く…それは「合法的移民」の話でしょ? 非合法の移民も入れたら、一体どれ位になるのか…

奥さんは「移民を合法化」するのに賛成だと言う。合法化された移民は社会保険に加入する事になる。少子化で将来の年金制度に不安のある中で、外国人労働者は費用の一部を負担してくれる人たちでもあるのですね。

結局最後に、語学学校時代の日本人の友人と話していて、現在のスペインの人口は多分4500万くらいじゃないか…という事になりましたが、話している最中、そのカフェにぞろぞろと入って来た10歳前後の子供達、明らかに移民。昔のジプシーの子供達と、雰囲気がちょっと似ていなくもない。彼らが入って来た途端に友人は…「あ、この子たちには気をつけて」と言った。旅行関係の仕事をしていて、日本人旅行者が色んな犯罪の被害に遭うのをイヤというほど見ている彼…
「この子たち、ルーマニア人?」「うん、多分…」

子供たちは1,2分で、入って来た時と同じようにゾロゾロと店を出て行った。同じラテン語系の言葉を持つルーマニアからの移民は、私が帰る頃、目について増えて来ていた。赤信号で停まっている車に近づいて物乞いをする、身障者を装ったルーマニア人の少年達がニュースになっていた頃だ。(興味のある方は、≪フラッシュバック・スペイン≫「11. 路上の人」をご参照下さい。)

a0072316_04999.jpgそういえば同じ日のテレビ・ニュースで、日雇い労働者としてオリーブの収穫作業をしている、ルーマニア移民を取り上げていた。オリーブの収穫は昔から重労働と言われている。昔は大荘園主の下で働く貧しい小作農たちの仕事だったのかもしれない。そういう仕事をスペイン人の手でやろうとしても、中々人手が集まらなくなってるそうだ。
オリーブ産業にとって、このルーマニア人たちは貴重な労働力。
a0072316_042214.jpg彼ら、キャンプ場で野営しながら、日雇い仕事をしているらしい。
ルポでは、彼らの労働力がないとオリーブ産業が成り立たないという意見と、キャンプ生活の外国人が増えて町に不穏な空気が増すという意見の、両方が紹介されていた。
ちなみにルーマニアでは日に10ユーロ位しか稼げず、オリーブの収穫は日に30~40ユーロになるのだそうだ。

前述のウェイターの仕事も、朝から晩までお客の相手をする重労働で、なりたがるスペイン人が減ってるらしい。昔は国立の Escuela de Hosteleria という学校があって、観光・サービス立国を支えるホテル、レストランなどで働く人材を養成していたスペイン。初めてスペインに来た時の友人グループのひとりは、コックになると言ってその学校に通っていた。今はポルトガルのレストランで働いてるとか…
きびきびとして軽妙洒脱、そしてプロフェッショナルなスペインの男性ウェイター、好きだったんだけどな…

今回の旅行で入った店は限られているけど、イタリアンやアメリカンのチェーン・レストランやカフェ、そして大規模なショッピング・センターなどにある店では、殆どが外国人のウェイター、ウェイトレスで占められていた。

でもね、街を歩いて、スペインらしいバールや定食屋に入ってみると、まだ居ます。スペイン人のカマレーロ。

何故分かるのか、どこが違うのか…
外国人のカマレーロ、動きや反応が鈍いとでもいうのか…なんかハギレが悪いような気がするんだけど…?

でも外国人でも、そして女性でも、スペインのカマレーロの伝統を踏襲してる感じの人も居ました。郊外のショッピング・センターの中にあったスペイン・レストランで給仕をしてくれたアルゼンチン人の女性給仕なんて、同席のスペイン人からそう聞くまで、てっきりスペイン人だと思ってた。訛りもないし、何よりも同席者とのやり取りが、非常にスペインのカマレーロふう…あ、それからスカートじゃなくって黒のズボンに縞のチョッキで…なんかカッコ良かったデス!

最初の数日、このカマレーロ文化に代表されるような「あの非常にスペイン的」な何かが、外国人の増加で失われてしまうのじゃないかという不安が、実はスペイン人の間にかなりあるんじゃないかという気がした。

そして思い出したのは、3年前の帰国直前に行ったパリ旅行。あれだけ移民が多くて、外国人観光客がウヨウヨしていて、でもそれでもパリはパリであり続けているという感じ。
勿論短期間の旅行で深い事は分からない。郊外や移民のゲットーを見たわけでもないし…
だから本当の姿を知らない可能性はあるけれど、でもパリにはそれだけの「文化の力」がある気がしたのだ。(興味のある方は、≪フラッシュバック・スペインの「14.ヨーロッパの底力」をご参照下さい。)

スペインにもそれだけの力があるだろうか?
スペインにやって来て定住しようとする外国人を呑みこんで、そして同化してしまうだけの文化の力が…

旅の最後の方で、昔ピソ(フラット)をシェアしていた友達と2度目に会った時、私は彼女にこう言った。

…答はまだ分からないよね…
…でもひょっとするとひょっとして…失われないかもしれないし…
…だってスペイン人には、それがスペイン人だって分かる何かがある気がする…どっか違うんだよね…

だから、もしかして、ほんのちょっとだけ運がよければ、『あの「非常にスペイン的」な何か』は失われないかもしれないと、そう思います。
そしてどんどん変って行くスペイン社会には、もしそれが変ってしまったとしても、それなりの進化を遂げて行くんじゃないかと思わせる活力のようなものが、日本よりも感じられる気がしたんだけど…

!!…その辺の事を「マドリッド工事中」ってタイトルで書こうと思ってたので、順番変えたけど、何となくうまく繋がったような・・・?

最後にもうひとつ…前述の友人のひとりがバチカン美術館の中で撮った写真を見せてくれた時の会話。
私: 「バチカン美術館て、写真撮っても良かったんだっけ?」
彼: 「…だと思うけどな…もし、そうじゃなくっても、そこを何とかするのが、オレたちスペイン人だろ? …クック…)」(最後のは笑い声です、念のため…)
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by peque-es | 2006-12-07 14:49 | スペイン:人、物、言葉…
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